さいたま市岩槻人形博物館の修復事業について

当館の所蔵品は江戸時代から昭和時代初期に作られたものが多く、資料が長く置かれた環境や経年による劣化が進行しているものも少なくありません。伝統技法で作られた人形は複合素材からなり、環境の影響を受けやすいデリケートな資料です。そのため、コレクションを後世に伝えるために、平成21年(2009)より文化財修復技術者による修復を継続的に進めています。オリジナルの情報をできるだけ変えない現状維持を理念とし、劣化箇所の状態や材質などに応じて臨機応変に修理を行います。

処置中の様子


修理工程

  1. 該当する資料の現在の状態をよく観察・調査し、調査カードを作成します。
  2. 次に学芸員と修復技術者で打ち合わせをし、修理方針や方法を決定します。
  3. これを元に修復技術者が処置をします。

時間が経過するなかで、様々な理由で劣化していくため、修理は1回で終わることはありません。修理の理由や使用した材料などの処置方法を記録しておくことは、将来、再び修復をする時の大切な情報となります。

大切なこと

  • 安全に扱える(展示活用ができる)ようにする。
  • オリジナルの情報をできるだけ変えない。
  • 資料全体の調和と構造的な安定を考慮する。
  • 処置前の損傷状態、処置中、処置後などの記録写真を撮る。
  • いつ、誰が、どのように処置(材料や方法)を行ったかなどを報告書にまとめる。

修理方法の一例

【古吉野雛 男雛(部分)】

■胡粉層の剥落:背面に胡粉層の剥落が見られ、剥落した破片は残存していた。低濃度のアクリル樹脂を破片に含浸させて強化し、生麩糊で接着。剥離している彩色部には剥落止めをした。

【御所人形 鶏合(部分)】

■毛髪の剥落:毛髪は経年劣化により粉状化し、動かすたびに剥落する。凹部分や衿などにたまっている場合、刷毛などでドライクリーニングをする。
■胡粉層の割損:低濃度のアクリル樹脂を塗布含浸。これを繰り返し、下地を強化する。割損の程度により、高濃度のアクリル樹脂を隙間や段差に充填し、接着。余分な樹脂を除去後、胡粉を塗布し表面を整える。

【衣裳人形 初参(部分)】

■繊維の劣化:経年劣化により、経糸が失われ、緯糸がはずれていた。和紙を生地に近い色に染めて下地を作り、その上にはずれた緯糸を元の位置に収まるように、生麩糊で接着する。裂地の種類や劣化状況により、和紙の種類や厚さを使い分ける。

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